前回までに筋肉を物理モデルに落とし込むところまで紹介しました。
筋肉の物理的な特徴は
- 収縮時にのみ力を発揮すること
- 稼働域内で基準長さを変更可能であること
- 固さを調整可能であること
と整理しました。
それではそれぞれの収縮様式について説明していきたいと思います。
なお念のために断っておきますが、本記事の目的は「筋肉の動きについて理解を深める」ことにあります。
物理的、生理学的な不正確さが多分に含まれている恐れがあります。
もちろん問題の指摘は歓迎しますが、その点ご注意の上読み進めていただけますと幸いです。
収縮様式のまとめ
さっそくですが、収縮様式を1つの画像にまとめると以下のようになります。
大事なのは、どの収縮様式も荷重に対して張力で抵抗しているということです。
張力が発生しているということは、筋肉は意図的にΔLだけ短縮された状態にある、ということになります。
すなわち、
「微視的に、筋肉は基準長さに対して短い」
↓
「張力が発生」
という状態にある、ということです。
そう考えると、どの収縮様式も物理的には複雑ではないことがわかると思います。
それぞれの状態を詳細に見ていきましょう。
アイソトニック(等張性収縮)
張力を発生させたまま、筋肉の基準長さが変わることを指します。
ただし、言葉の中に「等張性」とあります
これは基準長さが変化する中で、張力が変化しないことを意味します。
おもりの質量が同じで、張力が変化するような状態とは、どんな状態でしょうか?
例えばケトルベルスイングでの振り上げ動作では、重さ以上の重量感を感じますよね。
この時、質量は変わらないのに重く感じる物理的な原因は、加速度による慣性力にあります。
つまり、ウエイトリフティングやチーティングなどの動作においては加速度が時々刻々と変化していますので「等張性」を失った状態です。
ですので、厳密にはアイソトニックとは言えないと思います。
また、時々収縮様式を紹介するサイトで「おもりによる力に打ち勝って」と記述されているものが散見されます。
打ち勝つとなると、上記左図の場合だと張力P>mgということになり、加速度が発生することになるので正しくありません。
あくまで、荷重と張力は釣り合った状態で静的な状態を保ち続けます。
さて、張力を発生させたまま、筋肉の基準長さが変わることを指すと紹介しました。
基準長さの変化には、短くなる場合と長くなる場合が含まれます。
コンセントリック(短縮性収縮)
こちらは筋肉の基準長さが短くなるケースです。
張力は変化しません。
エキセントリック(伸張性収縮)
こちらは筋肉の基準長さが長くなるケースです。
張力は変化しません。
いずれの場合も筋肉の基準長さが変化しているだけと考えると、現象を容易に捉えられるかと思います。
アイソメトリック(等尺性収縮)
筋肉の基準長さが変わらずに張力を発生させている状態を指します。
この場合においても、荷重が変化しないのであれば張力が変化することはありえません。
仮に質量が大きくなるとどうなるでしょうか?
荷重が大きくなるので、これに抵抗するだけの張力が発生することになります。
張力は、フックの法則で表現することができます。
xはここでいうΔLに相当しますが、これは変更できません。
そうしますとより大きな張力を発生させるにはkを大きくせざるを得ません。
kを構成するパラメータを観察しますと、Lは基準長さに相当しますので定数です。
ですので、ヤング係数Eもしくは断面積Aを大きくするしかありません。
断面積Aを大きくするのは、まさしく筋肥大に相当するでしょう。
筋肥大は筋力を高める方法の1つであることが物理的にも示すことができました。
ヤング係数Eを大きくすることは、具体的にはどの事象を指しているのでしょうか?
ヤング係数は、ある断面積あたりの筋肉が発揮できる張力の大きさを示しています。
ですから、アクチンフィラメントの動員数向上と同義と考えて良いのではないでしょうか。
具体的には、高重量・低回数により刺激される神経系の改善が、ヤング係数の増大に相当するトレーニングと言えると思います。