前回はスクワットの姿勢が正しく取れる可動域について考えました。
スクワットの姿勢に対して、構造力学的には発生する力が3つあります。
それは「軸力」「せん断力」「モーメント」です。
これらの力がスクワット中にどのように分布しているか、見てみましょう。
「軸力」「せん断力」「モーメント」の力の分布
以下のように変数を与えてあげることにします。
各関節は剛接(がっちりつながっている)と仮定して、片持のラーメンのように解きます。
(この辺の細かい話はトレーニングにはある意味関係ないですし、ポイントはここではないので、省略します。)
解いた結果が以下になります。
軸力は一様に分布する
軸力は各関節間を結んだ線分に、圧縮方向に発生する力を指します。
実際には筋肉は圧縮力を受け持つことができないので、骨がこれらの圧縮力を受け持つことになります。
上図にあるように、軸力は各部で一様に分布しています。
これに対して骨で抵抗することで、スクワットをすることができます。
(ただ、背骨はS字を描いているので、軸力によって曲げが発生するものと思われます。
これに対して、腹圧などで抵抗していることは想像に固くありません。
この件については以下の記事で考ています。)
フリーウエイトの場合はこのように骨にも力が作用することで、骨を強化する効果があります。
このことを「骨ピエゾ効果」と呼ぶようです。
せん断力も一様に分布する
せん断力はここで紹介しました。
せん断力も軸力と同様に、各部で一様に分布しています。
背骨の場合は小さな骨が接合されて1本の長い柱のようになっています。
せん断力に負けると、これらの骨がずれてしまうので腹圧により抵抗することになります。
他の部位に関しては不明ですが、骨が抵抗しているものと推測します。
(よくご存知の方、教えてください)
モーメントも分布がある
今回一番ハイライトしたいのはここです。
モーメントの作用に関しては、各関節で「点で」作用するような表現が多いかと思います。
確か、Mark Rippetoe氏の「Starting Strength」でもそうだったかと思います。

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モーメントが「点で」作用すると想定して話を展開するのは、運動力学上大きな齟齬は出ないのかもしれません。
しかし、広背筋や脊柱起立筋の寄与、あるいは腹圧の寄与の観点で、説明し辛い所が出てくるかと思います。
構造力学的にはモーメントは膝関節・股関節を変曲点にして、上図のように分布しています。
モーメントは部材を「曲げる」方向に作用する力です。
曲げると、部材には引張力と圧縮力が作用します。
背骨周りでモーメントが発生すると、腹筋側では圧縮力が、背筋側では引張力が発生します。
これに対して腹筋側では腹圧で、背筋側では脊柱起立筋、広背筋などで抵抗しているものと考えられます。
大腿骨周りや脛骨周りでは、圧縮力は骨が、引張力はPosterior Chainに相当する大殿筋・ハムストリングス・腓骨筋が抵抗しているものと考えられます。
まとめ
ここまでスクワットについて、幾何学的・構造力学的に考えてきました。
もっとも簡易に2次元で考えておりますし、各関節の詳細構造を無視しておりますので、精緻ではありません。
しかしながらおおよその傾向や、力の発生の仕方についてはこのような整理で良いのかと思います。
このように考えますと圧縮力やせん断力(?)に対して、大腿骨・脛骨周りでは骨で抵抗出来るのに対して、背骨周りは骨だけではなく筋肉で受け止める必要があることがわかります。
背骨の健康を維持するためには、適切な重量設定と正しい姿勢、および想定される力を理解しておくことが重要だと言えると思います。