デッドリフト実施時に胴体に作用する力を通じて、剛性について考えています。
今回は3/3、最終回です。
下図のように100kgのバーベルをリフトする直前には、胴体に軸力・せん断力・曲げモーメントが作用しているとご紹介しました。
この胴体に作用している力に抵抗して、曲がって吊り腰にならないようにリフトしていきます。この時の「曲がりにくさの程度」のことを曲げ剛性と言います。(ようやく出てきました。。。)。
一般にトレーニングをしている人が言う「剛性」や「体幹を固める」といった表現は、この曲げ剛性を高める作業のことを示していると考えています。
曲げ剛性は、以下の式で表現されます。
曲げ剛性(EI)=縦ヤング係数(E)×断面二次モーメント(I)
ヤング係数とは軸方向の変形のしずらさを示します。簡単に言うと材料の「固さ」を示した指標です。断面二次モーメントは断面の形状に応じた変形のしにくさを示します。例えば同じ面積でも平べったいものと丸い形のものだと曲がりにくさは異なります。
胴体の断面には背筋群、脊柱、腹圧と、曲げに抵抗する要素が複数あり、それぞれの「固さ」が異なることから一旦ここではヤング係数については言及しないでおこうと思います。(というか、まだ考えきれていません。。。) ここからは断面の材質が均一と仮定した場合の力の分布について紹介しようと思います。
胴体内部に作用する力について、単位面積で割った値を応力と言います。以下にデッドリフトのリフト時に、ちゃんと腹圧が機能した場合の応力分布を示します。
曲げモーメント(3521.65kg-cm)によって背中には引張応力、お腹側には圧縮応力として作用します。また、軸力(76.31kg)によって胴体全体に圧縮応力が作用します。結果的に胴体に作用する応力の分布はこれらの足し合わせになります。もちろんこの絵は仮定の話が多く含まれているのでなんとも言えないのですが、上手く腹圧を機能させると脊柱への負荷を小さくすることが可能だとわかります。
また背筋群が肥大すると単純に抵抗断面が大きくなるので、背中に作用する引張応力は小さくなります。
一方で腹圧が作用しないと脊柱に作用する圧縮応力は大幅に大きくなります。そのためリスクは大きいのですが、他方背筋群に作用する応力のピークが大きくなり、トレーニング効果が高まる可能性があります。
以上のように胴体の曲げ剛性には形状そのもので決定される断面性能が大きく関わっていることがわかりますし、
腹圧をかけないことのリスクが定性的に理解できるかと思います。また、軸力が多少背筋群の負荷低減に作用
していることもわかるかと思います。
デッドリフトを通して胴体の剛性について3回に分けて考えてきました。繰り返しになりますが、胴体は他の部位と異なり脊柱や内臓などを含む比較的「柔らかい」部材で、本来の機能上曲がることを厭わない部位です。ですので他の部位と同様にモーメントアームだけを考慮する考え方は危険ですし、「体幹を固める」ことの物理的意味をよりクリアにイメージして頂きたく、今回の記事を書きました。ご参考いただけますと幸いです。