のんびり肉体改造ブログ

30代社会人のトレーニング記録と雑記

リフティング種目でかかる負荷はどの程度か、簡単な物理で考えてみる

ウエイトリフティングでは、バーベルを一瞬で床の高さから肩より上の高さまで持ち上げます。めちゃくちゃかっこいい種目です。YouTubeやSNSでは山本俊樹さんの動画を見かけることが多いです。

www.youtube.com

ウエイトリフティングは瞬発的に力を発揮する練習になるので、スポーツ選手のトレーニングにもよく取り入れられています。私はこんな本格的なものは出来ませんし、頑張る気力がないのですが、ハイプルだけはやっています。ハイプルとは以下のような、(多分一番)シンプルなリフティング種目です。

これらの動画を見ていると、ひょいって簡単に挙げているので何か自分でもできそうですよね。ところがこの動きは柔軟性と強度を兼ね備えていないと、全くもってできません。私も80kg程度のハイプルでヒイヒイ言っています。

ということで、リフティング種目へのイメージを膨らませるために、どのくらいの負荷がかかっているのかを簡単な物理で考えてみたいと思います。

考え方

瞬間的な動きを物理に落とし込むには、力積の考え方を活用すると上手くいくと考えます。

ja.wikipedia.org

この式を使います。


mv_a-mv_b= \int_{t_a}^{t_b}  F dt

ある短い時間で力を与えてやることで、バーベルが上まで跳ね上がるような速度を与えるのがリフティング種目なので、「力を与えている時間」と「必要な速度」がわかれば、作用させないといけない力がわかります。

実際の計算

それではハングクリーンを題材に計算してみします。この動画がわかりやすいので参考にしようと思います。

youtu.be

力を与えている時間

この動画の中で力を与えている時間は、動作開始直前のここから

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(YouTubeから)

肘関節が緩みだすここまでと考えます。

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(YouTubeから)

足関節・膝関節・股関節の同時伸展を「トリプルエクステンション」と言いますが、これらの伸展が完了する前に肘関節が緩んでいます。リフティング種目で腕で引くことは基本ありませんから、力の伝達はここまでと言っていいでしょう。 時間にして約0.4秒です。

必要な速度

これは運動エネルギー保存則から求めることが出来ます。

wakariyasui.sakura.ne.jp

以下の式を用います。


mgh + 1/2mv^2 =Const

上記のハングクリーンにおいて、伸展が完了した時点から、バーが一番高い位置に到達した時点の高低差が50cm程度と仮定すると、


mg*0 + 1/2mv_a^2 =mg*0.5 + 1/2m*0^2

となります。式を解くと


v_a =\sqrt{g}

となります。

力積から必要な力を算出

バーベルに与える力はゼロから急激に最大値まで立ち上がるわけではなく、ある一定の時間で立ち上がると思われます。

f:id:CivilEng:20190821033341j:plain:w300

簡単に、ゼロの状態から最大Fmaxまで直線的に力が立ち上がって、肘関節が緩みだすその直前に力が最大となると仮定したのが、上の右図になります。これでFは時間の関数として考えられるようになりました。力積は右図の面積に相当しますので、直角三角形の面積を求める公式で簡単に求めることができます。さて、Fmaxを求めてみます。


mv_a-mv_b= \int_{t_a}^{t_b}  F dt

m\sqrt{g}-m*0= 1/2*0.4*F_{max}

F_{max}=1.60*mg

Fmaxは実際のバーベルの重量の1.6倍となることがわかりました。つまり100kgのバーベルをハングクリーンしようとすると、最大瞬間的に160kgの負荷が体にかかるということです。強烈です。

おわりに

いろんな所に仮定の話が入っておりますので、値は正確ではありません。ただ、上記の山本俊樹さんのデッドリフトの記録が約280kg、クリーン&ジャークの記録が206kgとのことなので、その比率は280kg / 206kg = 1.4倍となります。ですので、ざっくり1.5倍くらいの負荷がかかっていると思って間違いなさそうです。

さてここまで物理で考えると、リフティング種目の記録を向上させるためのヒントが見えてきます。

  • 持ち上げる高さは、なるべく少ないほうが負荷が低い。つまりバーへの潜り込みが低いほうが、小さな力でリフティングを成功させられる。
  • 力の立ち上がりが早いと、一定時間で与えられる力積が大きくなるので、Fmaxを低減させられる可能性がある。

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  • トリプルエクステンションが発生するまでの時間が長いほうが積分区間が大きくなるので、Fmaxを低減させられる可能性がある。例えば膝上から開始するハイプルより、床から開始するクリーンプルのほうがFmaxは小さいかもしれない。

リフティング種目をされている方にとっては割と当たり前のようなヒントですが、列挙しました。個人的には3つ目のヒントは新しい気付きです。ハイプルよりクリーンプルのほうが、より正しい体の使い方が求められるので採用していますが、瞬発力の改善のためにはハイプルを頑張るほうがいいかもしれませんね。

スポーツバイオメカニクス20講

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