のんびり肉体改造ブログ

30代社会人のトレーニング記録と雑記

ローテーターカフのエクササイズはなぜ軽い重量が推奨されるのか~簡単な物理で考える~

こんにちは、きっちゃん(@I_am_Entraineer)です。

先日、タロー (id:health--life)さんと連絡を取って、股関節やら肩やらの状態の評価をお願いしました。ちなみにタローさんは、こちらのブログで質の高い情報を配信されている方です。

www.health--life.com

YouTubeもされています。

www.youtube.com

で、タローさんに肩を見て頂いたところ...
「きっちゃん。。。右肩の状態かなり悪いですね」
「え、まじすか?」
「はい。。。棘上筋が全然動いていません

...まじですか?

確かに肩を2ndポジションで内旋・外旋させると前部がゴリゴリ鳴っていたので気にはなっていたのですが、痛みも何も出ないので、それほど気にしていませんでした。そもそも上投げでは割と投げられる方ですし、投げて痛みを感じたこともありませんでした。

そんなこともあって、ジムでのトレーニング前のアップで適当な外旋強化のエクササイズをやる程度でした。しかし、「このままでは突然肩に激痛が来たり、腱が損傷したりする」とのことで、ようやくローテーターカフについて真面目に考えるようになりました。

このローテーターカフ、インナーマッスルとも言われますが、よく「軽い重量で回数をこなしてください」とか、「思い重量だとアウターマッスルが代償動作をするのでだめだ」とか言われます。しかし、なぜ軽い重量なのかを明確に説明しているサイトは中々見当たりません。

そこで、ローテーターカフがどのように機能しているのかを探るために、簡単な物理モデルで検証してみました。

ローテーターカフの機能を検証するための物理モデル

肩のローテーターカフとは以下のように構成されています。棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の総称で、私は棘上筋の弱さが問題の一つだと指摘されました。

physiqueonline.jp

ですので今回は棘上筋に着目して、代表的なエクササイズである「フルカン」を題材に考えてみました。フルカンとは以下のようなエクササイズです。

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Full-Cam Supraspinatus Exercise • Bodybuilding Wizardから抜粋

上の記事にある通り、ローテーターカフはいずれも上腕骨頭の近傍に付着しております。上腕骨頭が動くと、周辺の骨や関節包と呼ばれるクッションのような部位に押し付けられるようになり、痛みが出たり、動作に制限が出たりします。このことをインピンジメントと呼び、ローテーターカフはそれを防止する役割があります。すなわち、ローテーターカフには骨頭がその場から動かないように固定して、回転を促す機能が求められています。

このような機能を、力学の世界では「ピン支持」といいます。トレーニーに最も馴染みがあるピン支持構造と言えば、ランドマインプラットフォームでしょう。

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これを踏まえてフルカン動作を物理モデルに落とし込むと、次のようになります。

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身長170cmの標準的な日本人男性の腕の長さを踏まえて、モデル化しています。Tdは、肩のアウターマッスルとして大きな力を発揮する、三角筋による力を示しています。エイヤで上腕骨頭から12cm程の位置に付着していて、上腕骨に対して20度程度の方向に筋繊維が走行していることにしました。

Naや、Raは、上腕頭骨の位置を固定するために必要な力であり、ローテーターカフにより発揮されるものです。Naが下向き(プラス方向)だと、上腕頭骨には上向きに動くような力が働いていることを示します。Raが右向き(プラス方向)だと、上腕頭骨は左方向、肩甲骨臼蓋に押し付けられる方向に動くような力が働いていることを示します。

この状態で、仮に、1kgのダンベルを持っているとして、θを0度から70度程度まで肩関節を動かしてみましょう。

解析結果

解析の結果、Td、Na、Raの値は下図のようになります。

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まずはTd、三角筋が発揮する力に着目しましょう。肩を外転させるには、角度が小さいうちから力を発揮する必要があるようです。また、角度が大きくなればなるほどTdが大きくなっています。

次にNa、上腕骨頭の上下運動に抵抗する力ですが、0度から4度の範囲では骨頭を上向きに引っ張ることで、位置を保持しようとしています。0度ではダンベルが肩の真下に位置するわけですから、この力の発揮のされ方は理解しやすいかと思います。この範囲では棘上筋が機能しているものと考えられます。ところが4度より大きくなりますと今度は骨頭は上方に押し上げられることから、これに抵抗する必要があります。これに対しては棘下筋・小円筋・肩甲下筋が機能します。

最後にRa、上腕骨頭が肩甲骨臼蓋から離れたり押し付けられる方向の運動に抵抗する力です。0度から20度の範囲では上腕骨頭が離れる方向に移動しようとしていて、これに抵抗しています。棘上筋はこの範囲で機能しているものと考えられます。20度より大きくなりますと、上腕骨頭は肩甲骨臼蓋に押し付けられるように動きます。

まとめると、次のようになります。

角度 上腕骨頭に作用する力 機能すると思われる
ローテーターカフ
0度~4度 下方向 +
臼蓋から離れる方向
棘上筋
4度~20度 上方向 +
臼蓋から離れる方向
棘上筋 +
棘下筋・小円筋・肩甲下筋
20度~ 上方向 +
臼蓋に近づく方向
棘下筋・小円筋・肩甲下筋

荷重は、例えば10度の場合、Td=2.5kg、Na=1.5kg、Ra=-0.4kg、となります。

考察

今回の解析で言えるのは、

- 「軽い重量でないとインナーマッスルが機能しない」との主張は、多分嘘
- 動作教育目的で軽い重量のトレーニングは徹底すべき
- フルカンは0度から30度、または45度の範囲で動作すれば十分
- 高重量のサイドレイズは控え、三角筋を鍛える場合はプレス動作の方が良いかも

ということでしょうか。順を追って説明します。

「軽い重量でないとインナーマッスルが機能しない」との主張は、多分嘘

上記の解析結果の通り、フルカン動作では三角筋とローテーターカフに発揮する力は力学的に決まってしまいます。ですので、「正しい動作」であれば重量の大きさで機能が変化することはありません。動作として上腕骨頭の位置が保持できていれば、ローテーターカフは機能しているはずです。というか、重い重量でもローテーターカフが機能していなければ、肩関節で重大な障害が発生する恐れがあります。

動作教育目的で軽い重量のトレーニングは徹底すべき

ただし、「正しい動作」というのが曲者です。そもそも上腕骨頭が正しい位置に収まっているかどうか、素人では評価できません。評価が難しいことから、怪我防止のために軽い重量でやれる範囲でトレーニングするのは、ある意味正解なのかもしれません。肩の機能改善を目指している方は、まずは専門家の指導を仰ぐ方が賢明と思われます。

フルカンは0度から30度、または45度の範囲で動作すれば十分

上記の解析結果からすると、棘上筋が機能する角度は0度から20度なので、多少の誤差を考えても30度から45度まで動かしておけば棘上筋の稼働範囲はカバーできそうです。着目すべきはフルカンの動作開始直後には、上腕頭骨は臼蓋から離れようとしていることだと思います。力学的にも、この範囲は肩は非常に不安定な状態にあると言えると思いますし、このことこそが棘上筋を重要視すべき理由だと思います。

高重量のサイドレイズは控え、三角筋を鍛える場合はプレス動作の方が良いかも

前述の通り、ボトムから腕を持ち上げる際に肩関節は不安定な状態になりますので、この範囲を避けてトレーニングをする方が良いかもしれません。例えばプレス動作であれば、少なくともこの範囲を避けた動作ができます。もちろん肩甲上腕リズムの崩れなど、他の要因で肩にストレスがかかる可能性がありますので、十分な注意が必要です。

解析や考察に際して、下記文献を参考にしています。ご参照ください。

Electromyographic Analysis of the Supraspinatus and Infraspinatus Muscles in the Motion of Shrug in the Shoulder

http://www.hs.hokudai.ac.jp/pt/thesis/file/2014/takeuchi.pdf

棘上筋の筋厚と肩関節外転角度との関係

Progressive high-load strength training compared with general low-load exercises in patients with rotator cuff tendinopathy: study protocol for a randomised controlled trial | Trials | Full Text

Rotator Cuff Injury: Background, Epidemiology, Functional Anatomy