(2020/03/12 一部追記いたしました)
こんにちは、きっちゃん(@I_am_Entraineer)です。
先日あるツイートが目に止まりました。
《最新ノート》
— ユウスケ | 筋トレ怪我ケガゼロプロジェクト (@physioyusuke) 2020年2月19日
\\【図解】デッドリフト股関節の関与//
デッドリフトとスクワット
力学的な違いは?
まずDLの股関節と膝関節まわりのモーメントアームを理解しましょう❗️
▶︎股関節からバーベルが離れること
▶︎膝関節の関与が少なくなること
これで股関節伸展筋に負荷がUP‼️
簡潔に解説🙇♂️ pic.twitter.com/0PcuVHRGJ2
理学療法士のユウスケさんです。いつも有益なツイートをされたり、フィジーク・オンラインでも記事を書かれたりされています。
デッドリフトの股関節位置の変化を示したイラストです。矢状面で見ると、ワイドデッドリフトよりコンベンショナルなデッドリフトの方がMid Footから離れており、モーメントアームが長くなっています。
一方で、リプ欄では
前額面で見るとスモウのモーメントアームは長いので、決して股関節の関与が小さいとは言えないのかなぁと思います。
— takaleo (@tass3_14) 2020年2月19日
これは私の想像ですが、スモウの動作は股関節内転に見えますが、股関節を外旋した状態で動作を行うので、矢状面のモーメントアーム以上に股関節伸展筋群への負荷が高いのでは?と。 pic.twitter.com/H21NPyvs5f
とあり、確かに前から見ると足の位置と股関節では距離があります。
そこで今回は、実際コンベンショナル・デッドリフトとワイドデッドリフトで、幾何学的な比較をするとともに、どのように力が作用するのかを考えることにしました。
前提として。。。
幾何学的に考察するには体のサイズを知る必要があります。今回は以下のサイトを参考に、身長170cmの男性を想定することにしました。
残念ながら大腿骨頭の位置を把握することはできませんでしたので、代替手段として大転子の位置を股関節位置としています。 漫画にすると以下のような感じになります。
さて、この人にコンベンショナル・デッドリフトとワイドデッドリフトをしてもらいます。
今回は簡単のため、
・脛は傾けず、鉛直
・手幅は肩関節の幅と同じ
・上体はまっすぐ
ということにしました。そうしますとこの人の姿勢は、膝関節・股関節・肩関節の角度で決定することができるので、ベクトル計算で姿勢が求まります。さっそくエクセルで計算してみます。
デッドリフトの姿勢比較
計算から得られた、コンベンショナル・デッドリフトと、ワイドデッドリフトの代表的な姿勢を描いてみました。
一応、バーベルもそれなりの精度で描きました。81cmラインで色を変えています。ワイドデッドリフトでの足幅は、81cmラインから少し超えて、90cmあたりになるようです。パワーリフターの写真を見ても、そのあたりに足があるので、計算は概ね合っているでしょう。またいずれも腕の角度は0°~5°の範囲で収まり、その角度の範囲で微妙に姿勢の調整ができることがわかりました。
下のグラフは足幅を変化させたときの、大腿部の傾きと上体の角度の関係を示したものです。
これらから、わかることをいくつか挙げたいと思います。
足幅が広がると大腿部の傾きは小さくなり、上体は鉛直に近づく
考えると当たり前のようですが、足幅を広げると、矢状面・水平方向において股関節と足の位置が近づきます。そのため、上体が被らないように立てる必要があります。また、足幅を広げるとともに、大腿部の角度はどんどん小さくなり水平に近づきます。
足幅は920mmが限界
平均的なプロポーションの場合、腕の長さや上体の長さが影響することで、足幅は920mmが限界です。ただし、素質があって腕が長い人は、より上体を立てることができて、足幅を広げることができます。または骨格の個人差で、例えば頸体角や前捻角の制約で、足幅を狭めるしかない場合もあるかと思います。
股関節周りのモーメントの比較
次に股関節周りのモーメントを比較してみました。下のグラフは100kgのバーベルを仮定した場合の、足側に作用するモーメントと背中側のモーメントを示したものです。足は2本ありますので、モーメントの大きさは背中側の約半分になっています。また足側のモーメントは屈曲・伸展方向と、内転・外転方向に成分分解することができますので、2成分も表示いたしました。
なお実際には足幅を広げると、股関節は外転されるだけでなく外旋されます。屈曲・伸展方向または内転・外転方向というのは、便宜的な表現であることにご注意ください。
ここからわかることを考えたいと思います。
足側に作用するモーメントは、足幅に依存しない
足幅を広げていくと、屈曲・伸展方向のモーメントは小さくなりますが、内転・外転方向のモーメントが大きくなります。ですので合計のモーメントは大きく変化せず、数%程度の変化にとどまります。ワイドデッドリフトでも脚への負荷が小さくなるわけではなく、むしろ大腿部が水平に近づくことで足位置と股関節位置の水平距離が伸びますので、若干増加します。
足幅を広げると、背中側に作用するモーメントは小さくなる
一方で、背中側の負荷は小さくなります。上図の通り足幅を広げるとともに背中側のモーメントは小さくなり、35%程度低減することができます。
まとめ
今回はデッドリフトの姿勢を解析して、股関節周りのモーメントについて考えました。いくつか前提条件がある中での簡単な解析ですが、なんとなくの傾向は把握できたのではないかと思います。個人的には、柔軟性に問題なければコンベンショナルでもワイドでも適切な姿勢が取れることにちょっと驚きました。
ただこの解析のみから、背中の負荷が小さいワイドデッドリフトの方が高重量を扱えると考えるのは早計です。パッと思いつくのは転倒モーメントの問題です。ワイドデッドリフトでは足が外に向き、重心が足位置に近づくことから、バランスを保つのが難しいフォームとなっています。
ちなみに以前スクワットについても考察したことがありますので、よろしければそちらもご参考ください。ただし、こちらは足幅を考慮せず、2次元で計算をしています。