のんびり肉体改造ブログ

30代社会人のトレーニング記録と雑記

デッドリフトで広背筋はどう使われるのかを力学的に考える

こんにちは、きっちゃん(@I_am_Entraineer)です。

デッドリフトは背部にある筋肉を効果的に鍛える種目として人気があります。高重量のバーベルを引き上げるこの種目は、非常にキツいです。同時にフリーウエイトならではの達成感、爽快感があり、非常に楽しい種目でもあります。

そんなデッドリフトですが時折、広背筋に関してはあまり機能していないのではないか、といった議論が起こります。広背筋の作用としては、肩甲骨の下制、肩関節の内旋・内転・伸展、体幹の伸展などが挙げられます。こういった作用はデッドリフトの動作中に見られない、あるいはわずかな動きしかないのでは、という議論です。

賛成・反対両方の意見があるのですが、概ね次のような意見があるように思います。

[賛成意見:広背筋はあまり機能しないとの主張]
・上体が起きてくるにつれて肩関節が伸展するが、バーは概ね肩関節の直下にあるので伸展動作で広背筋は使われない
・肩甲骨は下制させるものの、重量が作用する方向と直角に近い関係にあり、重量に抵抗する形で下制させるわけではない

[反対意見:広背筋は使われるとの主張]
・スタートポジションでは肩甲骨の直下にバーが位置しており、肩関節の伸展作用によりバーの位置を保持する必要がある
・引き上げる際に、バーを引き寄せて体の近くを通すために広背筋は使われる

[その他:感想]
・デッドリフトをしていないくても、他の種目で広背筋はでかくなる
・デッドリフトをしているやつで背中が小さいやつは見たことない
・デッドリフトは生命に効く

様々な意見が出ていることがわかります。しかしながら、私個人としてはしっくり来る理由がなく、ずっと悶々と考えてきました。「確かにそんな使わん気するなぁ」と思う日もあれば、「やっぱバリバリ使うやろ!」となる日もあり。かなり悩みましたが、私なりに「やっぱり広背筋は使うんじゃないかなぁ」との整理がついたので、ご紹介しようと思います。申し訳ありませんが、今日は数字は出てきませんし、定性的な話に終始します。

そんなことよりデッドリフトの実践的な話が聞きたい方は例えば以下がおすすめです。


【デットリフト】初心者が腰を痛めないためのフォーム解説【筋トレ】


デッドリフトで背中を曲げない方法|DL 200kg REPS CHALLENGE【やよい軒?】


【肉体】正しいデッドリフト講座【改造】 AF版

背筋群の位置関係

デッドリフトでの広背筋の役割を知るためには、背部の筋肉の位置関係を理解しておく必要があります。以下は身長170cmの平均的なプロポーションを持つ男性にデッドリフトをやらせた様子です。

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背部の筋肉は大きく分けると脊柱起立筋群・僧帽筋・広背筋に分けられると思います。脊柱起立筋群はこの位置にあります。筋「群」なので起始・停止位置が様々ですが、肩甲骨や肩関節にはつながっていません。

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僧帽筋はこの図では表現しずらいですが、このあたりにあります。起始は胸椎にあって、肩甲骨につながっています。

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広背筋はここです。起始は胸椎や腰椎、骨盤にあって、上腕骨につながっています。

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これを踏まえた上で、重さがどうやって伝わるかを考えてみましょう。

脊柱起立筋群まで重量が伝わるシナリオ

どんな種目でもそうですが、スクワットやデッドリフトのような種目では、バーベルの位置から足の位置まで必ず重量が伝達する様子が描けるはずです。このことは、トレーニング種目を力学的に考える上で大事なことです。また、重量が伝達する様子を描く上で、以下のシンプルなルールを理解しておく必要があります。

①引っ張られる力には、筋肉が抵抗する
②圧縮される力には、骨および腹圧が抵抗する

ではバーベルの重量を今回は脊柱起立筋群まで伝えてみましょう。まず、バーベルの重さは前腕を通じて肘関節まで伝わります。

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さらに、上腕に伝わります。

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ここから伝達ルートは、広背筋を経由するルートと僧帽筋を経由するルートの2つに分かれます。まずは広背筋が機能しているとして、ここを経由するルートを見てみましょう。上腕骨の付着位置から、扇状に力が流れていくことになります。流れた力は脊柱に作用することになります。

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一方で僧帽筋を経由するルートはどうでしょうか。こちらはまず肩関節を経由して、肩甲骨の付着位置から扇状に力が流れることになります。肩関節では三角筋を経由することになりますが、ここでは省略しています。

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その後、広背筋を経由したときと同様に、僧帽筋を通じて脊柱に力が作用することになります。

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どちらも脊柱を側面から引っ張るような力なので、こんなの意味あるの?と思うかもしれません。これはまず、ギターやケーブルの吊橋のような構造をイメージして頂くと良いかと思います。

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すなわち、腹部の断面で見ると、広背筋は以下のように位置していますが、

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脊柱がたわもうとする力に対して、広背筋は緊張することで抵抗し、腹腔部に押し付けようと働きます。

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僧帽筋、広背筋を経由して脊柱に作用した力をまとめると、以下のようになっています。

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どちらも機能すると、バーベルの重量が上手く分散されて脊柱に作用していることがわかります。このように脊柱に作用した力によって、上体は下へ下へ曲げられます。これに抵抗するように働くのが、脊柱起立筋群です。

私は今更気づいたのですが、脊柱起立筋群って肩甲骨につながっていないんですね。ですので力の伝達経路として、例えば肩関節から直接、脊柱起立筋群に作用することは有りません。必ず、

僧帽筋・広背筋

脊柱

脊柱起立筋群

の順に作用します。

広背筋のどの作用を利用しているのか?

繰り返しになりますが、広背筋の作用は肩甲骨の下制、肩関節の内旋・内転・伸展、体幹の伸展などがあります。デッドリフトで広背筋が上記のように機能するとき、私は「肩関節の伸展」が利用されていると考えます。ですが、「デッドリフトで広背筋は使われない」との意見の方からすると、「じゃあバーをすねにゴリゴリ押し付けてるのか?」と疑問を投げつけたくなると思います。

確かに筋肉の収縮は、起始・停止の一方が固定された状態で上手く発揮されます。広背筋の場合だとケーブルプルオーバーのように腕を上体に近づけるように動かすのが一般的ですよね。しかしながら、デッドリフトの場合は100kgを超える重量を扱いますので、腕の位置はそうそう動きません。

逆です。デッドリフトの場合はそうではなく、「腕を固定して、上体を腕に近づけ」ていると考えます。

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スタートポジションでは上体が自由に動く状態ですので、こちらを動かすわけです。ケーブルプルオーバーと逆です。デッドリフトではリフト前に胸を張る動作をしますが、これが肩関節の伸展によるポジション取りを指していて、広背筋の緊張を促していると考えます。

広背筋が機能していないとどうなるのか?

広背筋が機能することで、脊柱に対して荷重が広い範囲に分散されるわけですが、うまく機能していない場合は以下のようになります。

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股関節からかなり離れた位置のみで、しかも分散しない分、先程より大きな荷重が作用することになります。このように荷重が作用すると、脊柱起立筋群の強度がより要求されることになりますし、腹圧もより大きな圧力が要求されることになります。

まとめ

今回はデッドリフトで広背筋はどう使われるのかを考えてきました。このくらいの話になると、さすがに簡易計算でも追いかけられず、終始ふわっと話になって申し訳ないなと思います。

なお、「広背筋の筋肥大に効果的かどうか」は不明です。筋肥大に効果的な運動が「可動域を大きく使う」ことだとすると、当然懸垂のような種目よりは可動域は小さいでしょうから、効果的ではないかもしれません。

ちなみに以下の文献で腹圧について調べてみましたが、約140kgのデッドリフトで発生する圧力は大気圧の20%程度だそうです。

www.ncbi.nlm.nih.gov

広背筋の効果を考えず、肩関節1点に140kgが作用すると考えて簡易計算すると、必要な腹圧はもっと大きな数値になりました。機会があれば、その観点からも広背筋の効果について考えてみたいと思います。