のんびり肉体改造ブログ

30代社会人のトレーニング記録と雑記

筋肉と摩擦の話(その1)

こんにちは、きっちゃん(@I_am_Entraineer)です。

筋肉はファシアと呼ばれる膜状の組織で覆われているようです。

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筋肉が滑らかに動かなくなる原因の一つには、局所的にファシアが筋組織に癒着したりすることがあるようです。正直このミクロな話については良くわからないので、専門家の知見を参考にして頂けたらと思います。

局所的な癒着や滑りが悪い状態をマクロの視点でみると、摩擦の話に置き換えることができるんじゃないかなと思ったのが、この記事のきっかけです。筋肉は様々な組織に接触していたり、あるいはトレーニングベルトで締め付けられたりします。しかし、あまり摩擦の観点で考察されることがないようで、「muscle fascia friction」とか、「muscle fascia interference」などと検索しても該当する記事はありませんでした。今回は「筋肉に摩擦が作用しているとどんなことが起きそうか?」を力学的視点から考えてみたいと思います。

ちなみに今回も相変わらず妄想ですし、定性的な話です。思考実験です。一つの考え方として楽しんで貰えますと幸いです。

摩擦について


高校で習う物理では、以下のような公式で摩擦力が計算できるとされています。

F_0=μN

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ここで、F_0は最大静止摩擦力、μは摩擦係数、Nは垂直抗力です。つまり静止した物を動かそうと徐々に力を加えていき、動き始める直前に抵抗している摩擦力の大きさが、F_0です。また、式に面積が含まれていないことから分かる通り、「面積の大きさに依らない」とされています。

これは人の直感に反していると思います。どう考えても接している面積が大きければ大きい程、摩擦力は大きくなるような感じがしますよね。実は上記の式は経験則であって、この式だけを眺めていても本当の姿は見えません。実際、物体の表面は滑らかに見えても分子レベルでは非常に細かい凹凸が存在していて、物体同士の本当の接触部分(真実接触部と呼びます)は見た目よりずっと小さいと言われています。この真実接触部の面積が荷重に比例して大きくなることと、真実接触部で分子間力が発生することから、上記の式が成立すると言われています。

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さらには、この式は接触している摩擦面の間に潤滑剤がなく、完全に乾燥した固体と固体の摩擦を想定していて、潤滑剤が存在すると摩擦力はぐっと小さくなります。機械モノに潤滑油をさす理由はこれですね。

非常に簡単にまとめると、摩擦力は接触面積や摩擦面に存在する潤滑剤などの影響で決まる、ということです。ちなみにこのあたりは摩擦学(トライボロジー)と呼ばれる分野でして、これまた詳細はよくわからないので専門家の知見を参考にして頂けたらと思います。

www.tribology.jp

さて、摩擦力の大きさは接触面積に比例することがわかったところで、筋肉に摩擦が作用した場合について考えていきます。

筋肉は摩擦でどんな影響を受けるか

仮に筋肉が引き伸ばされたとき、摩擦の影響を受けない場合は以下のように力が伝わっています。筋肉には一様に張力Tが作用していることがわかります。

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ところが、筋肉はファシアなどの他の組織と接触していて、摩擦力を受ける環境にあります。筋肉が引き伸ばされようとすると、実際にはこれに抵抗する摩擦力が働くわけです。これを考慮して、摩擦力の大きさが一様であると仮定すると、張力は以下のように変化します。

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本来は筋肉が張力に対して抵抗するはずが、摩擦力によって筋肉に作用する張力は中心に行くに従って小さくなっているのがわかります。 また、実際に発生し得ないと思いますが、さらに極端に摩擦力が大きくなると以下のように、筋肉の中心付近は張力が作用しなくなります。

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あるいは、これも極端ですが、トレーニングベルトのように筋肉の一部を外側から締め付けた場合、このようになります。

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これらの力の伝達の様子は、杭などの線状構造物の設計計算を応用しています。例えば、杭は引き抜かれようとした時に、杭と接している土との間で摩擦が発生して、引き抜かれないように抵抗します。

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これの応用です。

このことから、筋肉に対して効率よく刺激を与えるには、筋肉が滑らかに動くことが大事だということがわかります。また、「トレーニングベルトをすることで広背筋下部への刺激が弱くなる」との感覚の原因も、この辺りにあるような気がします。

さらには、ファシアなどの組織にアプローチするツールとしてフロスバンドがありますが、これは圧迫により意図的に摩擦力を大きくした状態で筋肉を動かすことで、摩擦で上手くファシアなどへ刺激を与えているものと想像することができます。

まとめ

今回は筋肉とファシア、あるいはトレーニングベルトとの関係を、摩擦の観点から考えてみました。ボディメイクに取り組んでいる方は全身くまなく鍛えたいでしょうから、このように筋繊維に効率的よく張力が入らないような状態が起こり得ることは、少し頭の片隅に入れておいてはいかがでしょうか。

ちなみにその2では、この摩擦力が原因で怪我につながるんじゃないかという話をしたいと思います。