こんにちは、きっちゃん(@I_am_Entraineer)です。
先日Twitterでいつもお世話になっているOJSNさん(@iamojsn)から以下のようなヒントを頂きました。
https://t.co/TSNqcVxCYi
— OJSN (@iamojsn) 2021年5月3日
0〜30度の棘上筋狙いのフルカンレイズって身体を傾けるかサイドライイングにしないと"負荷"にならないのでは?(モーメントアームの観点)って思いがあったけど、きっちゃんさんが書いてるNaとRa、その力の意味も加味して考える必要があるかも。
ここでOJSNさんが言及されている話されている関連記事は、以下です。
この時は、上体が直立な状態のときにどのように棘上筋を刺激を与えるかを考えて、外転角度で0度から30度までで動作をすると棘上筋にうまく刺激が与えられそうだ、と整理をしました。 しかし、以下のように上体を傾けたり、寝たりするとと棘上筋への負荷のかかり方が変わるのでは?というのがOJSNさんのコメントです。
(*)OJSNさんのスケッチですが、特別に許可を得て掲載しています。
(*)私のスケッチではありません。私ならもっとry
また、前回は腕の重さを考慮していませんでしたが、腕一本あたり体重の6%程度あるとのことです(丁度良い出典がありませんでしたので、あまり正確ではありません)。体重70kgだと、
腕一本で4.2kgあることになります。棘上筋に刺激を与えるために扱う重量が大きくありませんので、無視できない重さであることがわかります。
そこで、改めて計算をしてみることにしました。腕の重さを考慮して、上体の傾き・ダンベル重量・外転角度をパラメータにして、棘上筋の負荷がどう変化するかを調べました。
物理モデル
モデル自体は前回と殆ど同じです。ただし、腕の自重と上体の傾きを考慮する必要があるので、以下のようになります。
身長170cmの標準的な日本人男性の腕の長さを踏まえて、モデル化しています。Tdは、肩のアウターマッスルとして大きな力を発揮する、三角筋による力を示しています。エイヤで上腕骨頭から12cm程の位置に付着していて、上腕骨に対して20度程度の方向に筋繊維が走行していることにしました。また腕の重さは70kg×6%=4.2kgが、等分布荷重として作用していることとしました。
Naや、Raは、上腕頭骨の位置を固定するために必要な力であり、ローテーターカフにより発揮されるものです。Naが下向き(プラス方向)だと、上腕頭骨には上向きに動くような力が働いていることを示します。Raが右向き(プラス方向)だと、上腕頭骨は左方向、肩甲骨臼蓋に押し付けられる方向に動くような力が働いていることを示します。
ではまず、ダンベル重量を1kgに固定して、上体の傾きを0度から90度まで15度ずつ変化させ、肩関節を0度から70度程度まで外転させてみましょう。
解析結果
解析の結果、Td、Na、Raの値は下図のようになります。
今回は棘上筋に一番関係がありそうな、Raだけに着目することにします。上体の傾きが0度のグラフを見ると、前回の計算に比べてマイナスの値が大きくなっていることがわかります。
これは腕の自重を考慮しているからであり、前回は外転角度0度~20度の範囲の値は殆どゼロに近かったことも踏まえると、1kg程度では意識付けとしての意味合いはあれど、負荷にならないようです。
上体を傾けていくと、Raがマイナスの範囲が徐々に小さくなり、90度傾ける(つまり寝そべると)マイナスの範囲は外転角度0度から20度弱の範囲まで狭くなります。また負荷の大きさは、上体の角度が30度を超えると外転角度0度で最大となり、上体の傾きが45度以上になると荷重が-10kg程度のまま変化しないようです。
上体の傾きを45度に傾けると直立の時より大きな負荷がかけられることがわかりました。そこでつぎに、今度はダンベル重量を1kg~10kgで変化させ、上体の傾きを45度で固定して、肩関節を0度から70度程度まで外転させて計算しました。下図のようになります。
重量が大きくなるとRaがマイナスの範囲が小さくなっていくようです。これは腕の重さよりダンベル重量の方が相対的に大きくなっていくためと思われます。ダンベル重量が10kgになるとRaは-35.7kgにもなり、かなり大きな負荷が棘上筋にかけられそうです。
最後に、ダンベル重量を1kg~10kgで変化させ、上体の傾きを0度から90度まで15度ずつ変化させたときに、Raが最も小さくなる時の値をプロットしたのが下図です。
棘上筋に最も大きな負荷がかけられるのは上体の傾きが90度で、ダンベル重量が10kgのときのようです。面白いのが、上体の傾きを調整するとダンベル重量が1kgのときのほうが、直立の状態で10kgのダンベルを扱うのと同等以上の負荷がかけられる点です。1kgのダンベルでも姿勢を変えることで様々な刺激が与えられそうです。
まとめ
今回は上体の傾きやダンベル重量を変化させて、フルカン動作について考えました。腕の重さが思いの外影響しているのが面白かったですね。また、どのみち外転角度0度から20度の範囲でしか棘上筋には負荷がかけられないようですので、見栄を張らずに軽めのダンベルを持って、上体を傾けてフルカン動作をするのが棘上筋を鍛えるのに一番良さそうです。もちろん負荷に慣れてきたら、漸進性過負荷に倣って重量を増やしていくことは重要だと思います。